フィンテックとは (2)

決済の高度化
ここでの決済とは私達が買い物をしたときにレジでお金を支払ったりする決済ではなく、主に金融機関や企業の間での資金のやり取りを指すものです。現在、世界中でITを活用した決済高度化の検討が進められています。日本でも金融庁を中心に、決済の高度化の具体的取り組みが検討されています。主な取り組みとして「国際標準への対応」「送金フォーマットのXML電文化」「仮想通貨への対応」「多国籍企業の資金管理への対応」「電子記録債権の強化」などが挙げられています。これまでの決済サービスは、基本的に銀行が取り扱う主に国内での取引を中心としたサービス分野でした。しかし、最近は決済分野でもさまざまなイノベーションが起きています。そしてこれらのイノベーションは、主にフィンテック企業を含む銀行以外のプレーヤーによって生じたものです。この変化に対応するためには、従来の銀行を中心とした閉じられた構造を転換し、銀行以外の多様なプレーヤーが参加できる環境整備が進められています。国内にとどまらず、アジアやグローバルなレベルでの標準化への対応も重要です。
より安全な金融取引のためのセキュリティ向上
警視庁の報告によると、2015年中のインターネットバンキングを通じて行われた不正送金の被害額は約30億7300万円と、前年をさらに上回って過去最高を更新しました。これらの犯罪に利用される不正プログラムは数多くあり、新たな手口も次々と出現しています。このインターネットバンキングの犯罪の防止が難しいのは、利用者のPCや利用するブラウザが狙われるため、金融機関だけでは対処することができない点です。利用者側が、ウイルス対策ソフトの導入や各ソフトウエアを最新の状態へ更新するなどの対策をとることは有効ですが、徹底することはなかなか難しいものがあります。またワンタイムパスワードの利用も広がってきていますが、PCそのものがそれらのパスワードを流出させる不正なプログラムに感染していた場合、ワンタイムパスワードも無力になってしまいます。そのため、最近の対策としてPCだけでは取引が完結しないような仕組みが登場しています。
代表的な例は、スマートフォンなどを利用した生体認証をインターネットバンキングなどの認証に利用するというものです。生体認証システムは、指紋、手のひらや指の静脈、瞳の虹彩といった身体的特徴や、筆跡、まばたきをするときの表情や歩行するときの動きなどの行動的特徴を利用します。こうした生体認証システムは、「第三者によるなりすまし」が難しい認証システムです。オランダのING銀行では、ネットバンキングの取引のパスワードに、利用者の音声を活用しています。ネットバンクで取引をする際に、ある特定のフレーズをスマートフォンに向けてしゃべることで、その取引が本人によって行われていることを確認する仕組みです。またスマートフォンのカメラで自分の顔写真を撮影して認証を行う「セルフィー認証」を大手カード会社のマスターカードが試験的に導入しています。このセルフィー認証では事前に撮影された顔写真を利用されるのを防ぐために、撮影の際カメラの前で「まばたき」をする必要があります。ちょっと変わったところでは、カナダのバイオニムが開発したナイミというリストバンドは、その利用者の心臓の鼓動の波形を記録してユーザーを認証する装置です。心臓の鼓動の波形は真似をすることも盗まれることもありませんので、これまでにない強力なセキュリティ対策になります。
2016年5月、住信SBIネット銀行が不正送金を未然に防止する特許を取得したことがニュースになりました。普段持ち歩いているスマートフォーンを認証手続きに利用することで、トークンなど別の認証デバイスを持ち運ぶことなくより高度なセキュリティを実現する認証サービスです。金融機関主導のセキュリティ向上の取り組みとして非常に注目されます。
新たなチャンネルの拡大とチャンネルの統合
金融機関は伝統的に支店を中心として発展してきたビジネスです。しかしインターネットの登場以降、物理的な店舗のみでビジネスが完結することはなくなりました。金融機関もインターネットを新たなチャンネルとしてすでに活用していますが、近年はさらに新たなチャンネルへの対応が求められています。新しいチャンネルの代表が「モバイル」と「SNS」でしょう。スマートフォンを中心としたモバイルチャンネルが重要なのは「いつでも、どこでも」利用できる点にあります。PCはその前に座っていないといけませんし、使いたいと思っても電源を入れてブラウザを立ち上げてその銀行のサイトに行って、という手間がかかってしまいます。一方スマートフォンですと一回画面にタッチするだけでそのサービスにアクセスできます。ユーザーエクスペリエンス(UX)として見た場合、ブラウザ経由で利用するサービスよりもスマートフォンアプリのほうがはるかに優れています。またセキュリティの面でもスマートフォンのほうが優れている点が多くあります。しかし現状の金融機関が提供しているスマートフォンアプリはウェブサイトの延長として作られているものが大半であり、スマートフォンの特徴を最大限活かしたものとはお世辞にもいえません。一方でネオバンクやチャレジャーバンクと呼ばれる、モバイル専業銀行であるアメリカのシンプルやキャピタルワン、イギリスのアトムバンクなどは最初からスマートフォンでほぼすべてのサービスを提供することを目指しています。チャンネルとしてのスマートフォンをいかに活用するかが今後の金融機関の競争を左右しそうです。